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すごーーーく時間が開きましたが、久しぶりに「『死ぬまでに観たい映画1001本』を死ぬまでに全部見る。」企画を続行。
今回は、『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』です。
アカデミー賞主演男優賞受賞作ってことで名前はよく耳にする作品ながら未見だった本作ですが、いやいや、凄い作品でした。
ひとつ前に観た『ノーカントリー』とどこか似た雰囲気のある作品で、本作も一見したところ何を言いたいのかがよくわからない映画。
さらに『ノーカントリー』におけるシガーのようなわかりやすいアイコン的なとっかかりが無い分、さらに何が言いたい映画なのかがわかりにくく、それなのに見る者を引き付ける骨太な魅力のあって。
それでいて、その“魅力”が何によってもたらされているのかが謎。という不思議な映画でした。
「わかりにくい映画」とは言うものの、この”わかりにくさ”が本当に独特で、ストーリー自体は決して複雑なものではないんです。
というか、一人の男の半生を描く大河ドラマでありながら、ちゃんと描かれる登場人物は主人公ダニエルと、その対極に位置するキャラクターである宣教師のイーライ、それからダニエルの息子の3人だけ。
もっというと、息子はあくまで脇役的な扱いなので、物語としてはダニエルとイーライの二人がマウントを取り合っている様を描いているだけなんです。
だから、「何が起こっているのかがわからない」というような難解さはまったくありません。
では、何が難解なのかと言えば、ダニエルが何を考え、何をモチベーションに行動しているのかがまったくわからないという点に尽きます。
石油を掘り当て、さらに事業を拡大し、「富」を、そして「成功」を得たいという気持ちは伝わってくるんですが、その「富」や「成功」の目的が見えないんですよ。
うまいもんを食いたいでもないし、いい女を抱きたいでもない。ただただプリミティブな「成功」を追いかけているようにしか見えないダニエルの姿はまったく理解不能で恐怖すら感じます。
「家族」への愛情や憧れみたいなものも見せるかと思えば、その後の行動からは自分だけしか愛せないような雰囲気もあり。
基本的にまったく共感できないわけです。
逆に、相対するイーライはキリスト教福音派の狂信的な宣教師で、これまた宗教的な下地を持たないTHE日本人の僕には言ってることがまったく理解できなくて。
じゃあ、ダニエルの息子に共感するかと言えば、共感できるはできるんだけど、やっぱり物語の中では脇役にすぎなくて、共感したところで物語に関わっていくことができません。
そんなこんなで、じゃあ一体この映画の何を楽しんだのかと言えば、一つはダニエルとイーライのやり合い。
何を考えているかつかみどころのないダニエルですが、イーライに対する敵意だけははっきりと理解でき、そして共感できるものです。
自分の力を信じて突っ走ってきたダニエルは、イーライが語る「救い」は全否定。一方でイーライはダニエルの”他者を傷つけてでも成功へと向かう”という姿勢に否定的。
この二人が、優位に立った時に相手に対して徹底的に叩きのめしにかかるんですが、そのやりあいにゾクゾクします。
僕は特に信仰を持っていないし、「救い」にすがることが“安易な逃げ”に見えるという気持ちの方が共感できるので、このバトルに関していえばダニエルの側にいるとは思うものの、さすがにダニエルの立ち振る舞いにはドン引きで。
これって、よくネットの掲示板やTwitterやYahoo!ニュースのコメントや、はてなブックマークなんかで見受けられる「お前は何と戦ってるんだ!」と突っ込まずにはいられない人たちの行動に似ていて。
コアな部分の主張には存分に共感できるんだけど、「そこまで強い意思表示いる?そこは流せばよくない?」と思わずにはいられない言動とでもいうんでしょうか。
そういう主張って、どこかコミカルで、そういう行き過ぎた意見みたいなのを見たくてYahoo!コメント見ちゃうこともある僕としては、ダニエルの過激なやり口は、しっかりとエンターテイメントしちゃっていました。
そして、そのエンターテイメントの行き着いた先のあのエンディング。
これまた、ネットで行き過ぎた奴を見つけて、その炎上の隅っこで冷やかしのコメントをしたりしながら眺めていたら、とんでもない結末を迎えるみたいなことって意外に頻繁に起こっているんですが、そういう感覚を味わうエンディングだと思いました。
“大どんでん返し”とは違いますが、こういう結末もまた”切れ味”のある終わり方。
「この話はどうやって終わるんだろう?」と思わせる大河ドラマを見せておいて、最後はスパっと一瞬で終わらせるあたり、実に華麗な映画でした。
物語を紡ぐうえで「人物描写」「情景描写」という言葉があるように、物語というものは“描く”ものだと思っていましたが、この映画は明確な輪郭線で描かれる人物描写はないし、ダニエルの人格を形成するうえでの背景など、そもそも“描かれていない”部分も多い映画です。
ただ、いくつかのボカした像を何枚も何枚も重ね続けることで、何かしらが“浮かび上がってくる”という見え方もあるわけで。
この『ゼア・ウィル・ビー・ブラッド』という作品は、物語そのものを“描く”のではなく、一つ一つはよくわからない描かれたものの中から“浮かび上がった”物語。
映画の表現方法って様々なんだなーと、芸術作品を見たときのような鑑賞後感のある映画なのでした。
いやー、すばらしかった。
作品概要
2007/アメリカ 上映時間:158分
原題:There Will Be Blood
配給:ディズニー
監督:ポール・トーマス・アンダーソン
出演:ダニエル・デイ=ルイス、ポール・ダノ